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[掌編]『夜』『魔女』『使者』 後編

 時刻は夜7時。
 住宅街にはちらほらと歩いている者が見える。
 皆一様に、わたしの姿を捉えるとぎょっと肩をすくめる。
 遠慮会釈無く、わたしはその者たちを出会い頭に狩っていく。
 血が吹き出る。
 先ほど浴びた返り血も乾かないうちに、新しい血液がわたしの肌を濡らしていく。
 もう、相手を“ヒト”とも思わない。ただのモノだ。
 中に内臓が詰め込まれ、血管と神経が縦横に張り巡らされ、それらが一つのシステムを構築している。
 ただそれだけの、モノ。
 だから、わたしはなにも思うことなく、刈り取っていく。
 たまに、無謀にも立ち向かってこようとする者がいる。
 危機に対して心得のある者だ。
 怯え震えるだけの者たちに比べれば幾分厄介とも言える。
 そういう者には、この大振りの鎌は余りに隙が多すぎる。
 だから、そう言うときにだけ、わたしは魔術を行使する。
 なにも火や雷撃を放つ訳ではない。
 一つ、指を立てて念じるだけ。それだけで脆弱な人間の身体はくたりと力を失う。
 ただわたしの身体の中に流れている“マナ”が減る。行使しすぎれば、当然わたしは命を落とすことになる。“マナ”はわたしの、命そのものなのだから。
 往来をぶらぶらとあてどもなくさまよって、不幸な邂逅に見舞われた者たちを刈り取り、目当ての場所を探す。
 ちょうど、わたしが448人目の魂を刈り取ったとき。不意に場違いなほど幸福そうな笑い声が耳に入った。
 その方向を見れば、三階建て、庭付きの裕福そうな家がある。玄関にはぼんやりと優しげな灯りが点り、庭に面した窓は生活を象徴するように輝いている。
 わたしはここに決めた。
 先ほどの笑い声からして、6人はいる。
 往来で蜘蛛のように巣をはるのは、不効率だ。
 だからといって、都会のような場所へ赴いて、一気に何十人も相手にしようとすれば、返り討ちに遭うか、あるいは“マナ”の枯渇によってわたしが命を落とすことになる。
 だから、こうして地方都市の住宅街に赴き、所帯を物色しつつ、邂逅者を刈り取っていく。
 これなら魔力を必要とせず、かつ安全確実に魂を集めていける。
 わたしは家の門を開いた。
 きいぃ。と鋭い音が響く。
 ちょうどいい。わたしのような存在の到来に相応しい、耳障りな音だ。
 『誰かしら?』
 怪訝そうな女の声が聞こえる。
 これもまた、ちょうどいい。
 来訪者を訝しむということは、家族は揃っているか、少なくとも当分の間来訪者の予定が無い、ということ。つまり邪魔者が現れない、ということだ。
 わたしはつかつかと玄関までの道を進んでいく。
 インターホンの類が玄関前についていればよかったのだが、あいにくそれは門のところにしか無かった。
 扉にたどり着くと、そこでゴン、ゴン、と音を立てて扉を叩く。
 一気に家中の警戒心が強まるのがわかった。
 先ほどまであった愉快そうな声の数々がぴたりと止んで、こちらに耳をそばだてているのがわかる。
 まるで小動物かなにかのようだ。
 扉の向こうに気配。
 『どちらさまですか?』
 男の声だ。恐らく家長のものだろう。
 わたしは声を上げる。
「あの・・・すいません・・・・・・。扉を・・・・・・」
 普通の女の声だったら、恐らく扉の向こうの男は鍵を開けなかっただろう。
 だが、わたしの喉から発せられたのは、年端もいかない、いかにも弱々しい少女の声。
 男が慌てたように覗き窓を覗くのがわかった。
 男の目に映っているのは、その声に相応しい、齢10を過ぎた程の幼い少女。それが血に染まっている。
 男には、わたしが加害者ではなく、被害者に見えることだろう。
 はっ、と息を飲むような気配。
 おそらく背に隠した大鎌も見えているだろうが、そのような見慣れないモノ、男に果たして凶器に映るかどうか。
 案の定、男は慌てたように扉の施錠を外す。わたしを心配してくれたのだろう、そうなのだろう・・・。
 ため息を吐きたくなるくらいに、簡単なこと。
 かちゃり。
 音を立てて扉が開いたその瞬間。
 わたしは背中から大鎌を持ち上げ、開いた扉の隙間から一気に滑り込ませる。
 何かを断裂する、小さな抵抗。
 ぼとりと、重いモノが落ちる音。
 わたしは扉を引き、呆然と立ち尽くしている男を無視して、扉を閉める。
 男はいかにも善良そうな人間だった。
 目元は穏やかで、肌は白く、身長は170㎝ほど。玄関の床におちた右手を見ると、それが先ほどまで幼い子供の頭の上に置かれていたことが想像されるような、優しい手だった。
 男は恐る恐ると言ったように、自分の右腕を見る。刹那、口が大きく開かれる。
 面倒だ。叫ばれると人が集まる。
 ぶんっ、と重い音を立てて、大鎌がひらめく。
 悲鳴が男の喉から溢れ出すその瞬間、大鎌の刃がその首を断裂していた。
 ふわりと男の首元が浮いて、地面へと落下していく。
 ごん、と不気味な音を立てて、玄関の床に首が転がり、頭部をうしなった男の身体が脱力してその場にくずおれる。
 さあ始まった。
 ここからは時間との勝負。
 出来るだけ俊敏に家中のものを全員口をきけなくさせて、それから魂を吸い取る。
 あまり時間を掛けては魂が抜けきる。それに助けを呼ばれるのも厄介だ。
 わたしの目的は殺すことではなく、飽くまで魂を吸収すること。
 わたしは土足のまま玄関にあがる。
 靴が男の血に浸っていたためか、ぐちゃぐちゃという湿った音が響く。
 見ると、廊下の先に開いたドアがあり、そこから女がこちらをのぞき込んでいるのがわかる。
 呆然として、悲鳴も出せないのか、近づいてくるわたしをただ立ち尽くして見るばかりだ。
 ちょうどよく首がでていたので、わたしは遠慮無くその首を切り落とさせてもらうこととする。
 女の頭が転がり、肉体がくしゃりと床に崩れ落ち、奥の方から赤子の鳴く声がする。
 まあ赤子は泣いていて良い。不審ではないから。
 わたしはリビングへと入り込む。
 室内の光景を見て、わたしは思わず笑い出しそうになってしまった。
 人数は5人。祖父母に兄妹。赤子は祖母が抱えて、ご親切なことに、食卓を立ち、ひとかたまりに集まってくれている。
 わたしは素早く肉薄する。思い切り大鎌を振りかざし、勢いをつけて振るう。
 だが、力が足りなかった。
 3人ほど切ったところで、兄妹の兄の方の背骨でつかえてしまった。取り残したのは妹の方と、赤子。
 妹の方は半身を真っ二つに切られた祖父母と、身体の中程まで鎌が食い込んだ憐れな兄の様子を見て、わなわなと唇を振るわせて今にも叫び出しそうだった。
 大鎌は骨に引っかかって抜けない。
 妹がひゅっ、と息を吸うのがわかった。
 わたしは鎌から手を離し、少女の口を塞ぐ。
「さけぶな」
 精一杯威圧した声を出そうとしたのに、出たのはやはり、少女の声。嫌になる。
 妹の方は、血まみれのわたしに口を押さえられて、益々恐怖が募ったためか、ただただ首を縦に振っている。
 わたしはよし、と言って手を離す。だが当然この少女も後で殺す。
 その前に。
 先ほどから耳元でぎゃんぎゃんとうるさく喚く赤子を先に黙らせよう。
 わたしはしゃがみ込んで、赤子の首に掛かっていたナプキンをはぎ取ると、それを無理矢理口に押し込めた。
 わたしは最後の生き残りの少女を見る。
「そんなことしたら・・・・・・赤ちゃんが・・・・・・」
 少女は懇願するようにわたしを見つめてくる。
 わたしは立ち上がって、少女を見下ろす。
 背格好はわたしと同じくらい。ならば年齢は10歳くらいということだろう。
 利発そうな顔立ちをしている。およそこのような惨事には縁遠い、綺麗に整った容姿。
 わたしは黙って兄の方に突きたったままの鎌を手にする。
 ぐりぐりと刃を動かすが、思った以上にがっちりと引っかかってしまったようだ。
 少年の身体の方を足で押さえて見ても、どうにも抜けない。
 構わず刃を引き抜こうとしていると、不意に、大鎌自身が、泣き叫ぶように低いうなり声を発し始めた。
 これは経験したことのないことだった。
 この大鎌自身が、まるで意志を持ってここから動くまいとしているようだった。
 わたしは舌打ちをして、大鎌を一瞥する。
 ならば・・・。
 わたしは大鎌の力を発動させる。
 これで少年の魂を身体ごと吸収してしまえばいい。
 が・・・、鎌は発動しない。
 そんな馬鹿な・・・・・・。
 この大鎌に意志があるとでも・・・・・・。
 いや・・・・・・。
 不審に思って、少年の胸に耳を押し当てる。
「・・・・・・なるほど。しぶといな」
 わたしの耳には、とくとくと、微かながら少年の鼓動が感じられる。あいにく即死では無かったようだ。
 恐らく少年は今、気絶している状態なのだろう。
 この大鎌、クレセントサイズは、生きている者から魂を吸収することは出来ない。
 とんだ失策だ。
 ならこの、隣で目を閉じ耳を押さえてうずくまっている少女を、どうにか生身で殺さないといけない。魔術は出来るだけ使いたくない。リスクがある。
 あるいはどうにかして、大鎌を少年の背骨から抜き取るか・・・。
 と、その時、思いがけなく、背後で物音がする。
「なん、だよ・・・・・・これ・・・・・・」
 見ると、ここにいる兄妹よりも、もう少し年上の少年――というよりも青年と言った方がいいか――が、リビングのドア先に落ちている母親の死体を見下ろして絶句していた。
「たかしおにい・・・ちゃん・・・・・・」
 少女の方がか細い声を上げる。
 わたしはちっ、と舌打ちをした。
 食卓に家族が揃っている中、この青年だけが自室にいたということか。
 いや、そんなことはどうでもいい。問題はこの状況をどう切り抜けるか。
 被害者のフリをして誤魔化すか・・・、いや、ありえない。誤魔化しきれるはずがない。
 ならば逃げる? ・・・いや、クレセントサイズを残していくわけにはいかない。
 肉弾戦・・・・・・。いや、青年か少女一人ならともかく、無謀だ。一方を相手にしている間に助けを呼ばれるのも困る。
 ならば・・・・・・残る選択肢は・・・・・・。仕方ない。
 人差し指を一つ、立てる。“マナ”を外に出すための孔を指先に空ける感覚。
 “マナ”が拡散しないよう意識を集中して力を込めると、やがて指先が淡い青色の光を放ち始めた。
「ゆかり・・・っ!!」
 青年がリビングに侵入してくる。
 死体の山と、わたしと少女を見つけて、驚愕に目を見開いている。
 焦るな。
 焦れば魔術は失敗し、“マナ”は体外へと漏出して最悪の場合わたしが死に至る。
 必要な量だけの“マナ”を抽出し、外界へと現出させる。
 間に合う。
 焦るな。
「おにいちゃん、この、子が・・・・・・っ!」
 少女が血まみれのわたしを指さす。
 青年は衝撃から立ち直り、怒り狂った眼差しをわたしに向ける。
 指先に“マナ”が集中する。
 よし、大丈夫。あとは孔を塞いで放つだけ。
 と、その瞬間、わたしは背後から急襲を受けた。
 目の前には青年。ならばこれは・・・。
 見ると、先ほどまでうずくまって震えるばかりだった少女が、果敢に立ち上がり、わたしにしがみついていた。
 わたしは集中を乱され、指先に集中していた“マナ”が一気に拡散していくのを感じた。
 まずい。
 と思ったときには遅かった。
 指先に開いた穴から、“マナ”が漏出していく。
 “マナ”には血液のように、空いた孔を自然に塞ぐような機能はない。意識を集中して自ら閉ざすほかないのだ。
 このままでは・・・・・・。
 と思った瞬間、頬に鈍い衝撃を受ける。
 どうやら、青年が拳でわたしの頬を殴りつけたようだった。
 わたしは歯がみする思いだった。
 ・・・わたしは馬鹿だ。
 油断していた?
 慣れからくる慢心・・・・・・。
 ぐったりと身体から力が抜けていく。
 そんなわたしの様子に構わず、先ほどと反対の頬に青年の追撃が加えられる。
 視界がちかちかと明滅する。
 この、ままでは・・・・・・。
 このまま・・・・・・わたしがここで死んだら・・・・・・。
 かづき・・・・・・。
 あと1994・・・。ここにいる人間を全部吸えば・・・あと、1986・・・・・・。
 まだまだ・・・殺さなくちゃ・・・。
 側頭部に、青年の拳を受ける。
 わたしは膝から力が抜けるのがわかった。
 どさり。鈍い音。
 ああ、この音は。人間が地面に倒れ込んだときの音だ。
 わたしが・・・倒れても・・・、人間と同じ音がするんだ・・・。
 指先に小さく開いた孔から、わたしの生命そのものが漏れ出していく。
 酸欠に陥ったように、意識が朦朧としていく。
 頭上で、青年が激しく息を切らしているのがわかる。
 少女が泣きわめいている。わたしが倒れて、恐怖の呪縛が解けたのだろうか。
 青年の注意も、わたしから部屋の惨状、生き残った妹の方へと向かったらしい。
 ああ。
 ああ・・・・・・。
 馬鹿者め・・・・・・。
 邪魔さえ入らなければ・・・、わたしは孔を閉じて、再び攻勢に打って出ることができるというのに。
 お前たちは、わたしに、とどめを刺さなければならなかったのに。
 わたしは、朦朧とした意識の中、指先に全身全霊を込める。
 でも・・・・・・。
 本当はこのまま・・・・・・。
 かづき・・・・・・。
 そうだ・・・・・・。
 わたしがその事に気がついたのは、いくつ魂を刈り取った後だったろう。
 たぶん、百は超えていたろう。
 それまでは疑問に感じることなんてなかった。
 だって、のうのうと生命を貪って、与えられた幸福に甘んじている人間などよりかは、よっぽど弟が生きているべきだと、そう確信していたから・・・。
 『かづきが死ぬくらいなら、お前が死ね』
 そう言って魂を刈り取った。
 弟の魂を半分、補完するだけで、2442も必要になる、人間の魂。
 なんて薄っぺらい魂なのだろうと思った。
 きっと塵芥ほどの価値しかないのだと、思っていた。
 でも・・・・・・。
 ふとある時、考えたんだ。
 かづきは・・・、あの優しいかづきは・・・・・・、自分が助かるために、千を超える人々の魂を奪ったのだと知ったら、どう思うだろうかと・・・。
 わかっている・・・。
 かづきは、間違いなく、苦しむ・・・。
 でも、それでも・・・・・・。
 かづきが生きるためになにか出来るなら、しないでいられるはずがない・・・。
 わたしは自分に言い訳をして、それからもずっと、罪もない人々の血を流し、その存在を抹消してきた。
 正義とはおもわない・・・。でも、正しいとは思っていた・・・・・・。
 指先に空いた孔は塞がった。
 二人の命を奪うだけの“マナ”も取りだした。
 どうする・・・。
 わたしは一瞬迷った。
 青年が泣きむせぶ少女を抱き留めて、悲壮な表情を浮かべている。
 けれど、それを見た瞬間、だった。理由はわからない。
 迷いは消えた。
 と同時に、わたしの中に、なにかどす黒いモノが、芽生えた。
 口元が歪む。
 喉がひくついて、くっくっ、と笑いがこぼれるのを抑えられない。
 ああ。
 ああ・・・・・・・・・・・・。
 青年が強い意志を帯びた眼光でわたしを見据えた。
 刹那。

 『殺してやろう』

 判然とした言葉がわたしの脳裏に浮かぶ。
 頭の中に埋まっていた箍がぱきっ、と音を立てて壊れるのがわかった。
 指先に溜まっていた“マナ”の性質を変える。
 ひゅんっ、と鋭い音を立てたかと思うと、青年の目玉が潰れた。
 後には不気味な暗がりが、顔に二つ残ることになる。次いで、青年が両手で顔を覆って、けたたましい悲鳴を上げる。
 その瞬間、激しい愉悦がわたしの胸中に広がるのがわかった。
 見ると、絶望の表情でそんな兄を見つめている少女の姿が。

 『この子は、とっておこう』

 頭の中で声がする。
 不思議と意識は鮮明だ。
 “マナ”が、まるで身体の奥から沸き立ってくるような感覚さえある。
 わたしは未だ死体の上に突きたったままの大鎌をみやる。
 最初からこうすればよかった。
 瞬間。
 大鎌が食い込んでいた少年の身体が消し飛ぶ。
 大鎌が共鳴するかのように、『ォォオオオ』、と慟哭し、そのままの位置で浮遊する。
 わたしは大鎌を手にする。
「苦しいでしょう? ね、だから殺してあげる」
 唸りを上げて大鎌が青年に襲いかかる。
 真っ二つに身体が切断された。
 大鎌はなおも泣き叫ぶように低いうなり声を上げている。まったく、なんて耳障りな音なんだろう。
 まるで人間の悲鳴のようじゃないか。人殺しの道具のクセに、そんなに斬るのがイヤなのか。
 耳をつんざくような、少女の悲鳴。
 わたしは無視して、大鎌を屍の上にかざす。
 すると、例によって大鎌は慟哭とも断末魔ともしれないうなり声を上げて、部屋中に散乱した血と肉と骨を吸収していく。
 部屋のそれを片付けると、少女が放心したようにぼうっとする。
 それも致し方ないことだ。
 このクレセントサイズに魂を吸われた者は、その存在そのものを吸収されることになる。
 それはすなわち、少女の記憶の中からも、存在を奪うことに他ならない。
 少女は滑稽なほど、呆然として、その後に、また悲鳴を上げた。視線の先には、血塗れのわたしと、リビングのドアのところに横たわった女の死体がある。
 わたしはつかつかとそちらを向かうと、吸収し、玄関先に倒れた男も吸収した。
 これで少女からは、この事件と家族の記憶が消え去った。
 少女はわたしの姿を認めると、きゃっ、と小さく悲鳴を上げた。わたしが、少女と同年代に見えるせいか、驚きはそれほど大きくはなかった。
「だ、だれ・・・・・・?! すごい血・・・・・・どうしたの・・・」
 どうしてか、わたしの身体についた血までは、このクレセントサイズは吸収してくれない。
 わたしは、少女に言った。
「これはね、血じゃないよ」
「え・・・・・・、じゃあ、絵の具?」
「うん」
「びっくりしたぁ・・・。でも、それは・・・?」
 少女はわたしの手にした大鎌を見て訊ねる。
「これ? これはね・・・・・・」
 言いつつ、わたしは少女に魔術を行使する。
「人間の魂を刈り取る大鎌、クレセントサイズって言うの」
「・・・・・・・・・・・・。ふぅん、そうなんだ。それで、きみは誰?」
 魔術によって無理矢理納得させられた少女は、なおも猜疑の眼差しをわたしに向ける。
「わたしはね、あなたの父と母の知人なの。覚えていない?」
「・・・・・・。お父さんとお母さん・・・?」
「そうよ」
「・・・・・・。ううん、覚えてない・・・・・・。ここ、・・・ここってわたしの家・・・だよね・・・・・・」
 少女は不安そうな顔で、辺りを見まわす。
 それから、
「わたし、ここに一人で住んでいたの・・・・・・?」
 縋るような目つき。
 わたしの顔が、笑顔に歪む。
「そう、今までは。でもね、今日からわたしと一緒に来るの」
「きみと・・・?」
「そう」
「・・・・・・そっか。わかった・・・・・・」
 少女は寂しそうに、こくりと小さく肯いた。
 ああ。
 愉しみだ。
 今から愉しみでならない。
 この少女にいつか、真実を教えてあげよう。
 わたしと一緒にたくさん、人を殺してから、それから教えてあげるのだ。
 悲しみと怒りに打ち震えたこの子を、殺すとき、いったいどれだけ気持ちがよいだろうか。
 家の外は不思議と静かだ。
 わたしは笑顔のまま、少女の手を引いて外に出る。
 すると、玄関の外には一つ、人影が。
「やあ、どうやらもうこれは必要ないようですね」
 立っていたのは、マスターの使者。忌々しい『奴』だ。
 手にした青い光を放つ宝石のような物体。
 魔女が“マナ”を補充するために必要だとされていたもの。
「・・・・・・。」
 確かに、あれだけ魔術を行使したというのに、“マナ”が減少した感覚はない。むしろ増加したような気さえする。
「あなたは本当に優秀ですよ。ふつう、こんな短期間でマスタークラスになれることなんてないんですからね」
 わたしは奴の言葉には答えず、こう言った。
「この子を魔女にしたい。どうすればわたしの身体から“マナ”を引き出し、この子に移せる?」
 奴は意地悪く、にやりと笑い、
「ええ。助手がいれば、魂を集めるのにもなお効率的ですからね。いいでしょう」
 奴は、『では“マナ”を引き出す法をあなたに授けましょう』と言って、わたしに向かって手の平をかざした。
 奴の手の平に“マナ”が集中し、次の瞬間、わたしの頭の中に“マナ”を自分の体内から引き出す方法が流れ込んできた。
 わたしはそれを確認すると、奴にはなにも言わず、隣の少女へと視線を向けた。
 少女は些か怯えたように、いくぶん上目遣いにわたしを見ていた。
 わたしは出来るだけ残酷に、優しく微笑みかけた。
 少女は安心したように、へらっ、と破顔する。
「それはそうと」
 奴が口を挟む。
「弟さんの具合、良いようですね。なによりです。なによりです」
 例の皮肉か。
 わたしは歯牙にもかけず、その場を立ち去る。
 まだまだ、この夜は始まったばかり。
 わたしは、かづきを助けるため、人を殺すため、夜の街へと踏み出す。
 この少女が一緒なら、きっと愉しい。そうに違いないのだ。
 まずはこの少女を、魔女にしてあげよう。
 すべてはそれからだ。
 わたしは奴に背を向けて、少女に“マナ”を授ける。
 最後にわたしの目に映った奴は、気味悪いほどわたしの大鎌を見つめていて、しきりにこう呟いていた。

『弟さんの具合、良いようです。なにより。なにより』

 大鎌が慟哭を上げる。
 夜の闇へと、それは悲鳴のように、響き渡っていく。



 了


 前編に比べて後編は長くなっちゃいましたね。
 前後編繋げたら、これ、掌編じゃなくて短編じゃない? っていうのはまあ考えないようにしましょう。
 一応今回も断っておきますが、これは診断メーカー あなたの書く小説のお題だしてみたー さんから頂いたお題で書いてます。お題をこうしてさくっといただけるのは助かります。感謝感謝!

 うーん。
 にしても特にコメントすることもないよなぁ。
 強いて言うなら、とにかく文章に、表現に、抑揚を持たせるのが自分、下手だなぁということ。
 一文一文の長さとかを調整すればいいのかなぁ。
 意味の強い言葉、弱い言葉を対比的に使っていけばいいのかな?
 うーん・・・。それだけじゃいけない気がする・・・。
 いや、なんといっても独白調が延々と続くのがよろしくない?
 ふむぅ・・・。
 むずかしおすなあ。


 ちなみに今もまた別のお題で書いてます。
 今日明日じゅうにしあがるかどうか微妙なので、明日は普通のブログになるかもですね。

 そ、それに、・・・明日は購入した天使のドロップが届くのです・・・。
 ああ!
 はやく!
 はやくお漏らしを我慢する幼女が見たい!!

 アニメもはやく観たいですね。

 ちなみに、天使のドロップ、マジキチな内容と評判らしいですが、自分にはあまりそうは思われませんね。
 おもらしとか失禁はメジャーでしょう。

 リアルでおもらししちゃった子がいたら、あちゃーって感じでなにも感じないのですが、どうして二次元だとあんなに可愛いんでしょうね。
 そうか、あれか、二次元の女の子の失禁は、真水を漏らしているんだもんね。そうか、そういうことか。なるほどねー!


 ふぅ。

 まあとりあえず、今日はこの辺で。
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[掌編]『夜』『魔女』『使者』 前編

 背を向け惨めに逃げ惑う人間に追いすがって、手にした大鎌を振るうと、柔らかい肉が引き裂かれる感触が手に伝わってきた。
 しゃっ、と勢いよく鮮血が噴き出す。わたしの顔にも掛かって、生温い液体が目の端を滴るのがわかった。
 不快だ。返り血も、生きた肉の感触も。
 けれど仕方ない。
 こうしなくちゃいけないんだから。
 どさり、と命を奪われた人間が血に伏す。
 手にした大鎌が甲高い不協和音を発する。まるで慟哭か断末魔のよう。わたしはこの音が嫌いだ。
 緩やかに湾曲した刃の先が、それに応じるように白く、白く、光り輝く。
 いつものようにわたしは、地面の上に力無く横たわる亡骸の上に、大鎌をかざす。
 すると死骸の方に変化が訪れた。
 ぐにゃ、ぐにゃり。溶解しているのか、歪んでいるのか。
 次第にそれは人の形をなさなくなっていく。
 と、不意に『人』だったそれが中空へ浮かび上がる。そして、傾けた皿からスープがこぼれるように、空間から大鎌の刃へと注がれていく。
 先ほどとは打って変わって、地の底から響き渡る唸るような低音が、刃から発せられる。
 わたしは黙ってその様を見ていた。
 これで何人目だろう。
 罪もない人を殺めたのは。
 いや、わかっている。
 わかっているのだ。
 これで442人目。これは記念すべき数字なのだから。
 薄暗い道。辺りを倉庫が建ち並んでいる。切れかけた電灯が、時折思い出したように通りを照らす。
 この道を抜ければ住宅街へ出る。無論、足を向けるのは初めてのことだ。
 そこでいくつかの所帯を狙って、そこに住む人々の息の根を止める。そして先ほどおこなったように、この大鎌で魂を身体ごと吸収する。
 それがわたしには必要なこと。わたしがやらなければいけないこと。
 わたしが、わたしだけが、できること。
 わたしが一歩住宅街へ向かって踏み出そうとすると、唐突に人影が現れる。
 チカチカと明滅する電灯の、光の隙間から出でたような、不気味な存在。
 わかっている。またあいつだ。
 わたしは声を掛ける。なんの用かと。
「つれないですね。なんの用か、なんて貴方が一番よくわかっているはずだ。・・・・・・さあ、これを受け取ってください」
 あいつはそう言って、わたしの方へと近づくと手を差し出した。
 手の平の上には、小さな玉が乗っていた。淡い青色の光を帯びている。宝石かなにかのようにも見える。
 わたしは黙ってそれを受け取る。
「いくつ、集まりましたか?」
 わたしは正面に立った『奴』を見据える。顔は見えない。あるようにも思えない。
「・・・・・・442」
 ぽつりとわたしは呟く。嫌になるぐらい、か細い少女の声だった。
「ほう、もうそんなに」
 奴は小さく驚嘆の声を上げる。
「では、あと2000ですね?」
 続けてそう言い、底意地の悪い笑みを浮かべた。ような気がする。
 わたしは黙っていた。
 奴は言う。
「あなたは優秀ですよ。ほとんど魔術にも頼らず、淡々と義務を全うする。効率的で、無駄もない。ええ、わかっていますよ。すべては弟さんのため。そうですね?」
 確認するように、嘲るように、奴は言う。
 わたしは黙って奴から視線を逸らすと、依然とこちらを見続けている奴を無視して住宅街の方へと足を向ける。
 奴の脇を通り過ぎ、前だけを見て進んでいく。
 そんなわたしの背中に、奴は声を掛ける。
「ちゃんとそれ、摂取してくださいよ? いくらほとんど魔術を使わないとはいえ、貴方もまたれっきとした“魔女”なのですから、それ無しには生きられないのですよ。“マナ”は必要な分だけ、あなたにはいくらでも差し上げますから、魔術も遠慮無く使ってください。――ああ、そうだ、それと」
 奴は一度言葉を切ってから、こう言った。
「弟さんの具合、良いようですね。あと、2000。がんばってください」
 わたしは思わず顔が歪むのがわかった。
 恨みを込めて後ろを振り返るが、奴は既にそこにはいなかった。
 影も形もない。
 わたしは苦々しくため息を吐いて、奴から受け取った“マナ”と呼ばれる玉を見つめた。
 これは、“魔女”であるわたしにとって、酸素であり、食物であり、命でもある。
 口を開けて、それを放り込むと、ふっ、と存在感が消失し、その代わりに全身に魔力が行き渡るのがわかった。
 わたしは“魔女”と呼ばれる者だ。
 “マナ”を得、魔の法を授けられたもの。
 魔女は決してありふれた存在ではないが、同時に極めて稀少な存在というわけでもない。
 現に、わたしに“マナ”と魔の法を授けたマスターの元には、わたし以外にも十数人魔女や魔術士がいる。
 先ほど現れた奴は、そのマスターからの使い。使者だ。
 定期的にわたしに“マナ”を持ってきて、そしてわたしの弟についての皮肉を必ず残していく。
 忌々しい奴だ。
 けれど・・・・・・。
「かづき・・・」
 ぽつりと、弟の名を呟く。
 弟は、マスターと奴の庇護の元、どうにか生きながらえている状態だった。
 わたしの弟、かづきは魂を半分奪われてしまったのだ。
 その魂を埋めるため、こうしてわたしは魔女となり人々の魂を刈り取っているのだ。
 『弟さんの具合、良いようですね。あと、2000。がんばってください』
 奴の皮肉が胸をえぐる。
 具合が良い?
 そんなはずがあるか。
 まだたったの442。あと2000集めるまで、どうか、どうか無事でいて欲しい。
 わたしはずしりと重い大鎌。クレセントサイズと呼ばれる三日月状の刃を持った大鎌を抱え直し、静かに住宅街へと向かう。



 了


 後編へ続きます。
 診断メーカーの あなたの書く小説のお題だしてみたー でお題を出してもらって、書きました。
 大筋は五分くらいで決めて、書きながら設定を詰めていきました。
 ブログもなにもとにかくキーボードを打っていなかったために、もうとにかく指が動かなくなってしまったので、指慣れのつもりで書きました。
 でもでも。
 書いていて楽しかったですよ。
 久しぶりに暗い話を書けて私は幸甚の至りでございますことよ。
 書いてみたら、テキストで22kというブログに相応しからぬ長さになってしまったので、前後編に分割します。
 後編は明日載せます。

 ではこの辺で。

[掌編]帰り道

「うぅ~、さむいねぇ~・・・・・・」
 学校からの帰り道。
 隣を歩いている篠原さんが手袋に包んだ手を握りしめながら呟いた。
「そうだね、さむいね・・・」
 他に返す言葉も浮かばなくて、僕はオウム返しにそう言って、誤魔化すように篠原さんに向かって笑いかけた。
 一歩歩くごとに、足下の雪がざくざくと音を立てて軋む。
「雪が降るなんてねぇ~。今年はじめてだね~」
 寒さにちょっと上ずった声音で、語尾を伸ばす篠原さんはかわいかった。
 僕は相変わらず曖昧な笑顔を浮かべながら、
「そうですねぇ」
 と返すほかない。
 それきり二人とも特になにを話すでもなく、慣れない雪道に足をとられないよう、いつもよりかは慎重に足を進めていく。
 今日は朝からいつになく冷え込んでいた。
 家の玄関を出て、土の地面を踏みしめたとき、ざくっ、と小気味いい音を立てて霜柱が割れたのを覚えている。
 空では太陽が雲に覆われて、眠たげな空気が蔓延していた。
 加えて、午前の授業の退屈さ。僕はお昼前の授業、三時間目にはついうとうととまどろんでしまっていた。
 そんな折、僕の目を覚まさせたのは、いまこうして隣を歩いている篠原さんの一声だった。
「ああ! 雪が降ってる!」
 授業中だというのに、誰憚ることなく、突然席から立ち上がって窓の外を指さし、ひらひらと舞う白い雪片を輝かしき笑顔で見つめていた。
 僕は机に突っ伏していた頭をもたげて、彼女の指さす雪を見つめていた。
 停滞していた教室中の空気がにわかにざわめきだすのがわかった。
 それはまるで、半ば諦めつつも待ち望んでいたものが、ようやくやってきたというような、春の訪れとも似たざわめきだった。
「雪だというのに春もない、か」
 気付くと口に出していた。
 隣を歩いていた篠原さんが怪訝そうな顔をして、こちらを見つめている。
 僕は懲りずに、誤魔化し笑いを浮かべて、篠原さんの訝しみから顔を逸らした。
 するとしばらく無言だった後に、
「そうだね~、雪も降ったら、つぎには溶けて春になるのを待つばかりだね」
 そう言って楽しげに歩道脇の塀に積もっていた雪を手にすくった。
 ちょうどおにぎりでも握るような手つきで、でも手袋に覆われて幾分厚ぼったい手許で、ぎゅ、ぎゅ、と力を込めて雪玉を作る。
 まさか、と思いつつそれを静観していた僕の顔に、篠原さんは至近距離でそれを投げつけた。
 力を込めて握られた雪玉はそこそこに固くて、寒気に強ばっていた頬の皮膚にひりひりと痛みを残した。
 僕が頬についた雪を拭いつつ、不平を漏らすと、篠原さんは幼い子供のようにきゃっきゃと嬉しそうにはしゃいで、すぐに次の雪玉を作った。
 僕も負けじと雪玉を作ってみるけれど、いざ篠原さんに向かって投げつけるとなると、些かも躊躇われて、その間に容赦のない篠原さんの雪玉が再び僕の顔面を襲った。
 少しだけ口の中に入って、一瞬の冷たさの後に、微かな苦みを感じた。
「顔に当てるのはやめてよ」
 そう言って顔を両手で覆いながら僕は篠原さんから逃げるように背を向ける。
 相変わらず年齢に不相応なはしゃぎっぷりで僕に追いすがると、雪に足を取られて鈍い足取りの僕の背中に次々と雪玉をぶつけていく。
 どうにも逃げられそうにないな、と思いつつ、何気なく振り返ってみると、ちょうどそのとき、危なげに篠原さんの身体が傾くのが目に入った。
 あっ、と声を上げる暇もなく、どしゃりと音を立てて雪の上に尻餅をつく篠原さん。
「痛たた・・・」
 言いながらも、相変わらずどこか楽しげなのは、呆れると同時に、やっぱりちょっと微笑ましい。
 慌てて駆け寄って、だいじょうぶ? と声を掛けつつ手を差し伸べると、素直にその手を篠原さんは握った。
 と、まずいな。と思った。
 篠原さんの口元が、無邪気で意地悪な形に歪んだからだ。
 ふわっ、と身体が浮いて、靴底が地面の上をなめらかに滑っていくのがわかる。
 近づいていく篠原さんの身体。
 頭の中は真っ白で、もうどうしようもなく体勢を整える暇もない。
 そのままどさりと彼女の身体の上に倒れ込んで、その瞬間温かな体温が僕の顔を包んだ。
 衝撃と困惑にうろたえていると、すぐ近くからまたあの楽しそうな笑い声が聞こえた。
 どうにか地面に手をついて起き上がると、篠原さんが、
「うかつだぞっ」
 そう言って得意げに指を突きつけてくる。
 僕は身体についた雪を払い落として、早くなった心臓の鼓動をどうにか静めようと苦心していた。
「あぶないよ、もう」
 とにかくそれだけ照れ隠しに言って、未だに地面に座ったままの篠原さんにもう一度手を差し伸べる。
「ありがとっ」
 篠原さんはその手を握って、今度こそちゃんと立ち上がる。
 のんきにあはは、と笑いながら上着とスカートをはたいている。
「あちゃ、お尻ぬれちゃった。つめたいな」
 それはあれだけ地面に座っていたら、雪も溶けるだろうな、と思いつつ、彼女を待っていると、不意に篠原さんは僕の顔をのぞき込んだ。
 相変わらずにこにこしながらじっと見つめてきて、僕は居心地がわるくなってしまった。
「ど、どうしたの? はやく行こうよ」
 そう言って篠原さんの視線から逃げるように前を向くと、突然、僕の手が何かに包まれた。
 少なからず驚いて、びくりと肩を震わせる僕を余所に、見ると篠原さんの手が僕の手を握っていた。
 たちすくんで動けなくなっている僕の身体を、篠原さんが引っ張る。
 篠原さんの背中を見ると、なるほど、先ほど言っていたようにスカートが雪どけに濡れていた。
「篠原さん、ホントにお尻ぬれてるね」
 と思わず僕が言うと、
「でしょー? つめたいんだよー」
 振り返って、さも困ったような表情をしつつ笑顔を浮かべる。
 僕が彼女の隣に追いついて、歩いても、握られた手はそのままだった。
 足下でざくざくと雪が音を立てて軋み、僕たちは家に帰っていく。



 了


 昨日のファミレスで、着想だけして気力不足で書けなかった掌編を一から書き直してみました。
 いやぁ。雪国生まれでない僕としては、雪って年に数度、幻のように降っては大人の顔をしかめさせ子供をはしゃぎまわらせる存在なんですよね。
 で、僕だってかつては子供だったわけで、その頃のことを思い出すとやっぱり心浮き立つわけですね。
 そこで、こんな話を書きました。

 一応二人の年齢とかは決めていません。男の子の方の名前は決めてありますが、あえて出しませんでした。

 地の文多めで、読みづらいかもしれませんが、正直書いている分にはとても楽しかったです。

 念のため断りを入れておくと、別にこれは書いた本人である僕の経験談とかじゃありません。って、これは言うまでもないですね、そうですね。・・・はぁ。
 それにまあ妄想ではありますが、文章中の“僕”と自分自身を重ね合わせて書いてもいません。
 ただこんな二人がいたらいいなあと思って書いたまでですよ。


 では、今日はこの辺で。

[掌編]本を読む女の子

 放課後の図書室。
 なにげなく立ち寄ってみたら、司書の先生と、生徒が一人きりページを捲っているだけだった。
 特に読む本も無かったから、何気なく生徒に話しかけてみた。
「なに読んでるの?」
 話しかけられた生徒は、驚いて顔を上げた。
「あっ・・・、たかしくん・・・。こんにちは」
 質問には答えず、こちらが誰かを認めると、へにゃと笑って見上げる。
「こんにちは、あけみさん」
 特に追究することはなく、適当に笑って返しておく。
 隣の席に腰を下ろすと、あけみさんはちょっと居心地悪そうに居住まいを正した。
 読書の邪魔をしちゃったかな、と思って、今更ながら一応断りをいれておく。
「ごめんね、邪魔だったら退散しようかな」
 言ってみて、これじゃあ気の弱いあけみさんのことだ、断れるはずもないな、と思い当たる。
 案の定、あけみさんはぶんぶんと首と手を横に振って、
「ううん、そんなことないよっ。でも、たかしくんはどうして図書室にきたの?」
 一冊も本を携えないのを不思議に思ったのか、あけみさんはそう訊ねてきた。
 これといった理由も無かったので、
「ちょっと暇つぶし」
 そう言うと、
「そっかあ」
 って言って、あけみさんは屈託なく笑みをこぼした。
 それからあけみさんの読んでいる本を教えてもらった。
「みざりーっていうの」
「どんな本?」
「うーん。こわい、本?」
「怖いんだ。ちょっと意外。赤毛のアンでも読んでいそうなのに」
「意外、かな? でも赤毛のアンも読むよ。まだぜんぶじゃないけど。赤毛のアンは家にあるけど、キングは無いんだ。だからここで読んでるの」
 あけみさんは楽しそうだった。
 それに、クラスの活動や、授業中のおとなしさを鑑みて、この饒舌さは本好きに起因しているのかな、と想像する。
「ふーん。こんど読んでみようかな」
「えっ?」
「ん?」
「・・・えっと、ミザリーを?」
「そうだけど?」
「・・・・・・、やめた方がいいかも?」
 そう言ってあけみさんは苦笑いを浮かべた。
「どうして?」
「・・・だってほら、こわい本だから」
「別に、怖いの平気だけどな・・・」
 なんだか馬鹿にされたような気がして、声が低くなる。
「えとね、あの・・・・・・その・・・・・・」
「なに?」
「よ、読むとは思わなかったから・・・・・・。たかしくん、本読まないでしょ?」
「まあね。自慢じゃないけど、漫画意外は教科書でしか読まないよ」
「だよねだよね。・・・それでね、初めて読んだ本で、びっくりしちゃうのもなぁって思って・・・」
「そんなに怖い本なの?」
「う、うん・・・・・・」
 なんだかあけみさんの口ぶりはそれ以外にも何かありそうだった。
 ちょっとだけ強めの口調で質してみることにする。
「なにかあるなら、はっきり言ってくれないかな」
 言ってみて、後悔した。
 あけみさんは強めの口調に対して、明らかに怯えの色を示したのだ。
 さっきまでの楽しげな表情は引っ込み、代わりにいつもの気弱でおとなしくて、それが原因で心ない“からかい”にさらされている時の、あの悲しげな表情に戻ってしまったのだ。
「あ、あのごめんなさい・・・・・・。わ、わたし・・・・・・あの・・・・・・」
 あけみさんはすぐにも泣きそうな顔をしていた。
 惨めに狼狽して、どうにか許しを乞おうとする、哀れな存在になってしまった。
 どうにか先の楽しそうに笑う彼女の表情を取り戻そうと、こちらも慌てて取り繕う。
「あ、いや・・・こっちこそごめん。その・・・・・・」
 しかし、もう遅かった。
 あけみさんの頭にはもう、ここから逃げ出すこと以外のことはないみたいだった。
 そそくさと立ち上がり、怯えたように俯きながら、本を抱えて出て行ってしまった。
 貸し出し手続きが済んでいなかったためか、司書の先生が彼女をたしなめたけれど、それでもあけみさんは止まらなかった。
 古くなった図書室の扉が、きしみをあげて開くと、彼女を通してから、誰かをしかりつけるように大げさな音を立てて閉まった。
 突然の事に、驚き、それから困惑し、それから怒りに変わった。
 なにか自分が悪いことをしただろうか、と内心で叫ぶ。
 引かれたままになっている、彼女が座っていた椅子を蹴り飛ばしたい気持ちだった。
 でも、その後にやってきたのは、なにより、悔しさだった。
 それが彼女の逃避的な態度に対する悔しさだったのか、取り返しのつかないことをしてしまった自分自身に対しての悔しさだったのかは、わからなかった。
 少ししてから、図書室を出る。
 司書の先生に、彼女のクラスや名前を聞かれたので、一応答えておいた。これは別に答えても、裏切りにはならないとも思ったからだ。
 図書室から昇降口に向かい、それから校舎を出た。
 夕陽が鋭く眼球を突き刺して、不意に、『いや、まだ取り返しがつかなくなったわけじゃない』と思い直して、特に何を考えたわけでもなく、走り出した。
 そうすれば、彼女の背中が見えるような気がした。



 了


 どうも。
 完全即興です。
 とりあえず、図書室で本を読んでいる女の子に話しかける男の子、っていうことだけを想像して、それからは思いつくままに書いてみました。
 最近こういうことしていなかったなって、思ったので、いまやったらどうなるかな? と。
 読み返していないので、整合性がとれていないところもあるかもしれず、それがちょっと怖いです。
 でも、誤字脱字と細かな表現を除いて、修正を入れるつもりはないです。それが即興、かつ習作、であることの意味ですからね。
 後で自分で読み返してみて、反省するつもりです。
 あと、まあ読んで下さった方がいらっしゃったらなのですが、付け加えておくと、一人称を抜きました。どっかで入ってたら頭抱えてごろごろ転がりますが、多分無いんじゃないですかね。
 まあこれも即興です。単に“俺”にしようか、“僕”にしようか、あるいは“おいら”とか“わて”とかあるでしょうけど、とにかくその全部にこの男の子、つまりたかしくんは当てはまらない気がしたので、一人称抜きです。あるいは彼は幽霊なのかもしれませんね。

 というわけで、この辺で。

[掌編]年の瀬

「りゅうくん。起きて、そろそろだよ」
「・・・んん・・・・・・。みぃ、か・・・・・・?」
「そうだよ。りゅうくん。もう一年が終わっちゃうよ。交代の時期だよ」
「・・・・・・そうか・・・。ふぁ、ああ・・・。よく寝たなぁ」
「もう、りゅうくんってば。また今年も寝て過ごしたの?」
「ああ、そうだよ。することもないしな」
「なに言ってるの。することたくさんあるじゃない。りゅうくんの担当は戦争でしょ?」
「そうだったか?」
「とぼけてもだめだよっ。もう! 平和が売りの国なのに、少し剣呑になってるよ。りゅうくんの責任だよ?」
「おれの責任・・・? ばかいうなよ。神が人間に責任を負うなんて、それは昔の話だ」
「昔の話なんかじゃないよ。わたしたちが導かなくてどうするの」
「導く? どうやって導くっていうんだ? やつらはもうおれたちを認めない。おれたちの声なんか届かないんだよ」
「たしかに・・・それは、昔に比べればそうだけど・・・・・・」
「だろう? この国の人間達は自分たちで歩いていくって決めたんだ。もう神の教えなんて必要ないんだよ。せいぜいがこの時期、やかましいくらいがしゃがしゃ鈴を鳴らして勝手な願いをぶつぶつ呟くのが関の山だ」
「でも求めているよ。みんな、わたしたちを」
「そうかい。みぃは求められているのかもな。みぃの司るのは、まだまだ神がかっているだろうからな」
「わたしだけじゃない。りゅうくんだって、人間は求めているよ。きっと、・・・ただ名前を忘れちゃっただけだよ・・・」
「そうかもな。でも、なにもおれだけじゃない。他の十神だって、まともに働いているやつなんかいない。その証拠に、ほら、去年の卯の野郎なんか、現世の畜生とまぐわってる隙に、クジラにやられただろう」
「あれは・・・もしわかっていても・・・・・・っ」
「そうだな。だから、卯を責めるやつもいない。わかっているんだよ。神が人間を救う時代なんて終わったって。その内に、おれたちは殺されるのかもな」
「そんな・・・・・・っ! どうして、どうしてそんなこと言うの? りゅうくん、昔はあんなに人間のこと、大切にしていたのに・・・」
「昔だろ? あの頃の人間はかわいかった。なにせ、あの時代のやつらは愚かだったからなぁ。争うことしか出来なかった。だからおれも手を差し伸べた。喧嘩を止めるのは、親の勤めってね」
「いまだって、まだまだ人間は・・・・・・わたしたちの助けを必要としてるよ」
「いーや。それは過保護ってものだ。もうこの国の人間は知っている。ただ昔の火が燻るものだから、それを御すのに苦心しているに過ぎない。いま手を差し伸べたら、それこそやつらは傀儡になる。待っているのは滅びだけだ」
「りゅうくんは、そんなことを言って、結局は手に負えないって諦めただけなんでしょ・・・?」
「・・・・・・ふん。さあな」
「それじゃだめだよりゅうくん・・・っ!」
「るさいなぁ・・・。ま、いいや。そろそろ、交代の時間なんだろ? 十二年後になったらまた考えてやるよ」
「りゅうくんっ! もう・・・っ!」
「で、あとどのくらい? 人間共から酒でもかっぱらってくるかな」
「だめだよそんなことしちゃ! えっとね、あと一時間くらいかな?」
「そうかそうか。もうそんな時間か。んじゃ、ちょっくら地上行脚でもしてくるかな。困った人間がいたら、そうだな、折角だ、“救い”を与えてやろうじゃないか」
「ちょ、ちょっとりゅうくん・・・・・・?! だめだよ! 人間を殺すなんて・・・!」
「“救う”んだよ。神に殺された者はことごとく極楽浄土行きだ。これ以上の救済があるかよ? おれは行くからな。じゃあな」
「りゅうくんっ! ・・・・・・行っちゃった・・・。もう・・・・・・」
 わたしは天宮から去って行く彼の後ろ姿を見送った。
 彼はその長い体躯を慣らすようにしきりに蠢かしては、天雷を地上に振りまく。
 ため息をついて、わたしもまた、人間の様子を伺うべく地上の社へ向かった。
「わたしが、がんばらなくちゃね・・・。わたしは、だって再生を司る神・・・・・・」
 年の瀬に、人々の神への想いがわたしの耳に届いてくる。
「・・・・・・はぁ・・・。」
 人の姿をとる。
 表面を覆っていた鱗がぱらぱらと地面に落ちていく。
 行き交う人々に、わたしの姿は見えない。
 すたすたと歩いては、人々の声を聞いていく。
「・・・・・・はぁ・・・・・・。」
 先ほどよりも深いため息がこぼれた。
 鐘の音も聞こえない。
 りゅうくんの言っていた言葉が思い出された。
「自分たちで歩いていく、か・・・。でも、それなら、・・・・・・なぜ、わたしたちは・・・・・・」
 まだ、こうして存在するのだろう・・・・・・。
 利用、・・・・・・。
 ちがう、ちがう・・・・・・。
 周りで、人々がざわめいた。
 どうやら、年を越したようだ。
 わたしの司る年がやってきた。
「わたし、がんばるよ。そしたらきっと、他のみんなだってわかってくれる。りゅうくんだって・・・、きっと・・・・・・」
 いつからか降り出した雪が、頬に触れて、溶けていった。
 つらりと雫が伝って、地面に落ちた。

 了


 世界観、設定だけを記しただけになってしまいましたね。
 毎回思うのですが、もっと丁寧に描写するべきですね。
 まあ僕としても、年の瀬に、こんな話をしている“神様”もいるかもしれないよ?わくわく。ってことを書きたかっただけなので、よしとしましょう。
 干支は別に、神様とか実際の蛇や竜とは関係ないそうですね。
 それでも神様として書きました。
 なぜかって?
 神様は歴史と伝統の中にあるのではないと思うからです。
 あと僕は別に“神様”を信奉しているわけではないので。
 絶対的、超常的、せいぜいがその象徴として胸に抱くまでです。


 よいお年を。
プロフィール

神無月六亜

Author:神無月六亜
物書きを目指してます。
ブログはやっぱり毎日更新が目標ですよね。

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